口蹄疫について、ここ数日で知ったあれこれ

どうも、御無沙汰しております。
数ヶ月ぶりですが、少々書くことが出来たので書きます。


どうにもこのところ、宮崎の口蹄疫が大変なことになっているようです。
そのことについて、私なりにまとめてみようと思ったのです。


口蹄疫というのは何物であるのか。
口蹄疫ウィルスによって発症する病気で、偶蹄目に感染するようです。
偶蹄目でない人間には基本的に感染せず、感染しても大事にはならないそうです。
感染した動物を食べても、やはり基本的には害は無いようです。
このウィルスに感染し、発症すると、蹄や口の周りに水疱が出来、
歩行や食餌が困難になり、段々と弱っていき、やがて死んでしまう。
家畜が発症すれば、乳の出が悪くなったり、肉質が悪くなったりして家畜としての価値が下がる。
しかしどうも、成獣が発症しても死に至ることはあまり無いそうです。
では、「それなら大丈夫じゃん」とならないのが病気というもの。
やっかいな感染症というのは致死率の低い感染症のことです。
死なないままに広まっていき、やがて弱い個体から死んでゆく。
そしてこの口蹄疫は、成獣では数%である死亡率が、幼獣では50%以上にもなるそうです。
極端な話、感染が広がれば群れが「タネ無し」になる病気であると考えて良いでしょう。
哺乳類には寿命があるので、口蹄疫の広まった群れはやがて壊滅します。


そして、口蹄疫の特徴の一つに「感染力が異常に強い」ということが挙げられます。
ウィルスというのは電子顕微鏡でようやく見えるようなサイズのシロモノなのですが、
そんな小さいものが、たったの10粒で、あのデカイ牛を感染させることが出来るそうです。
そしてさらに面倒くさいことに、コイツは空気感染もするそうです。
つまり、うっかりフワッと舞い上がって、うっかりフワフワ漂ってきて、
それだけで感染が広がる恐れがあると。


ついで、口蹄疫の感染が確認されたらどうすれば良いのか。
どうも周辺地域を含めて完全封鎖し、区域内の徹底的な消毒と偶蹄目動物の殺処分が本来のようです。
実際、そのような感じで2000年には封じ込めに成功したみたいですね。
何故「食べられるのに殺処分するしかないのか」と言うと、
家畜を食べられるようにするまでには、まず屠殺場に連れて行って屠殺し、
さらに食肉加工場に行き、加工しなければならないからです。
その移動経路の感染リスクが高まります。
前述のように口蹄疫は感染力の異常に強いものなので、
たったこれだけの経路でも感染域が爆発的に拡大する恐れがあるのです。


さて、生物学用語に「淘汰」というものがあります。
進化論の「自然淘汰」なんかで皆さんにもお馴染みですね。なので詳しい説明は省きます。
口蹄疫に弱い性質を持つ個体を淘汰していき、全体を「口蹄疫に強い家畜」にすることは可能でしょうか?
結論から言えば不可能ではありません。
しかし実際に行なうことの出来るものは、恐らく地球上には存在しません。
口蹄疫に対する抵抗性・感受性を調べるのですから、完成するまでは「口蹄疫ありき」になります。
前述のように感染力の異常に強い口蹄疫は、世界中でトップクラスに警戒されています。
口蹄疫ありき」である国・地域と関わりを持とうとする国が、どこにあるでしょうか?
完全没交渉になればまだ良い方。
場合によっては何らかの制裁が下る可能性だって十分にあり得ます。
(……まぁ、全世界が一丸となって、同時に同じ研究を進めれば……)
では、特定の研究施設に限定して研究を進めれば良いのでは?
ウシやブタというのは研究施設で扱うには大きすぎる動物です。
囲う檻が大きくなれば、その全てが完全であることを確認し続けるのは困難になります。
加えて研究施設には人間の出入りが発生します。
そんな状態で、電子顕微鏡サイズのウィルスが一切外部に漏れ出ないことを保証出来るでしょうか?
また、この手の研究は「口蹄疫に強いものを選ぶ」と「その次の世代を生む」を交互に繰り返さなくてはいけません。
昨今の生物学研究において「モデル生物」なるライフサイクルの短い生物が用いられている理由の一つはこれです。
つまり、ウシやブタのような、1世代の時間が長い生物は、研究に於いて非常に長い時間を要するのです。
時は金なり。
長い時間が必要な研究は、即ち金のかかる、難しい研究です。
上記と併せて、特に日本のような外国との関わりを前提とした社会では、すぐに立ち行かなくなります。
アメリカ、ロシア、中国くらいの大国であれば、国際的な立場やら何やら全てを犠牲にすれば、
鎖国し、全てを自給自足で成り立たせることが出来れば、出来るかも知れませんね。
さらには、このような品種改良によって家畜を「抗口蹄疫化」しても、
偶蹄目動物は家畜だけでは無いのです。
本来野生動物はそれほど個体密度が高くないので、
蔓延して全滅する前に感染した連中が死んでしまうのですが、
家畜のような個体密度が高い場所が、「口蹄疫に強い」ことによって口蹄疫ウィルスの存在を感知出来ないままで居れば、
そこから漏れ出たウィルスによって、その近辺の野生動物が全滅するという可能性が有ります。


ワクチンの予防接種によって発症を未然に防ぐというのも、同様の理由によって受け入れられません。
しかもワクチンは、変異し続けるウィルスに対して「この前こうだったから」でしか対応できません。
効果がない方が可能性が高い。


さて、そして、今やっている対策について。
完全とは言えないまでも、感染区域の封鎖を行ない、出入りする場合には消毒を徹底しているようです。
また、感染が確認された農場では家畜全頭の殺処分。
ごく一部の種牛は、感染していなかった場合のリスクとリターンが大きすぎるため、
特例として殺処分を見合わせているようです。
尤も、そうでなくても人手も埋める土地も足りないため、
管理態勢の整った「県の種牛」より、民間の家畜を優先すべきなのは当然なのですが。
また、感染区域の周辺でワクチン接種を行っています。
上で「ワクチンは意味が無い」と書きましたが、これは予防では無く「防波堤」。
少しでも感染拡大の速度を遅くするためです。
さらにその周辺地域では家畜の早期出荷。(これはちょっと色々あるのですが)
兎に角、感染区域の周辺に「家畜の存在しない場所」を作ろうというわけですね。
火事になった時に、その周囲の物を破壊し尽くしてしまえば延焼が防げるのと同じことです。


最後に。
今現在、人手も、殺処分した家畜を埋める土地も、消毒薬も、何も足りない状態です。
(人手に関しては殺処分を行なうことの出来る獣医でなければむしろ足手まといになってしまいますが。)
また、地元関係者の方々の精神的・肉体的負担も莫大なものになっています。
ウェットなことは書きたくはありませんが、
畜産農家の方々にとって、家畜は「実の子供のようなもの」であると言います。


「誰に責任があるのか」なども有りますが、
今はそんなことを追求する場合では無く、「どうすれば良いのか」を考える段階です。
我々一人一人、何か出来ることは無いかと考えていきましょう。





と、何だか綺麗っぽく終わらせると気持ち悪いなw